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竹島【蒲郡市】

うみエリア 事業者の声

田原市

持続可能な最先端養殖テクノロジーから生まれた新世代サーモン
~日本の食料安定供給を担い、SDGsに貢献したい~

渥美プレミアムラスサーモン事業者:林養魚株式会社 代表取締役 林邦康さん

福島県白河で養殖サーモン事業を展開する林養魚場

日本の寿司ネタランキングではサーモンが9年連続第一位で、二位のマグロ(赤身)、三位のマグロ(中トロ)をしのぐ人気だ(「回転寿司に関する消費者実態調査2020」マルハニチロ調べ)。特に、女性や子どもに好まれている。また、3~4年前から北海道の秋サケが不漁なことから、近年、養殖サーモンの需要が高まっている。養殖サーモンは、日本では年間40万トン流通しているが、95%がノルウェーやチリなど北欧や南極に近い国から輸入されたものであり、国産はわずか5%だ。
国産サーモンであるニジマスはもともと北米の魚であり、食用として輸入され、明治時代に滋賀県で養殖が始まり、全国に広がった。林養魚場は、昭和10年に創業し、ニジマスを福島県白河の山間地で養殖してきた。その頃は、戦前で食料が不足しており、国策として養殖が奨励されていた。ニジマスは水温が20度を超えると弱ってしまう。福島県白河は、阿武隈川の源流に近く、冷たく、良質な水が地下から出ており、養殖をするには適していた。
戦前から戦後にかけては、国内流通を中心に、輸出も展開し、事業は好調であったが、徐々に需要が減少して業績が思わしくなくなった。1990年代に入るとノルウェー産サーモンを生食用として輸入し始め、特に寿司ネタとして新しい食べ方が人気となり、国内のサーモン市場が拡大した。そこで林養魚場では輸出をやめて国内流通にシフトし、養殖池を福島県白河で2つ、宮城県で1つ増やして規模を拡大し、主に刺身用として販売していった。

最先端テクノロジー、RASシステム養殖の開業

福島県白河は、静岡県富士宮などの養殖が盛んな地域ほど、水質に恵まれていないので、林養魚場では創意工夫をしながら養殖技術を磨いていた。そのような中、林養魚場に転機が訪れる。2011年11月にノルウェーの養殖システムを視察し、高密度の養殖施設の中で魚が1匹も死んでいないことに衝撃を受けたのだ。そこで、世界でも最先端の技術であるRAS(Recirculating Aquaculture System)という循環濾過養殖システム(以下、RASシステム)を導入した工場を田原市に設け、2016年に開業した。田原市に進出した理由は、地下から冷涼できれいな海水(17~18度)を汲み上げることができるためだ。こうした地下海水は、日本でも静岡県御前崎と鹿児島県と愛知県田原の3か所しかないと聞いている。サーモンの養殖は13度が一番適した水温と言われるが、少し温かい方がよく成育するので、田原市の工場では源水を冷やさずにそのまま使う。
RASシステムは主に5つの特徴がある。一つ目は、効率的な生産。従来の外の養殖池でのニジマス養殖は源水かけ流し状態だが、RASシステムは24時間水を循環しており、従来型の1/100程度の水量で養殖できる。さらに、飼育密度が100kg/㎥と従来の8倍の密度で飼育でき、省スペースで魚を生産できる。二つ目は、投薬の必要がないこと。紫外線殺菌やオゾンの使用により病原菌の混入を防ぎ、完全無投薬となっている。これは、養殖技術では画期的なことだ。三つ目は、水の酸素濃度やpHをコンピューターで制御しており、魚に最適な環境を維持できることだ。四つ目は、魚が排泄した糞や尿、水中に溶け込んだアンモニア、二酸化炭素を常時取り除くことができること。将来的には温室の二酸化炭素濃度を高めたり、肥料などに活用できればと考えている。五つ目は、人件費がかからないこと。工場に従事する従業員は3名、管理はすべて自動制御で、出荷に人手がいる程度だ。
ニジマスは淡水でも海水でもどちらでも養殖できるが、孵化は海水ではできない。そのため、林養魚場では、ニジマスの孵化から稚魚育成、種苗育成(100g)までの10ヶ月間は福島県内の養殖施設で淡水で飼育し、その後活魚トラックで種苗を田原市に搬入し、成育育成から出荷(2~3kg)までをRASシステムの工場で半年~1年かけて飼育している。生き物の扱いには、わずかな環境の変化にも注意が必要だが、田原市のRASシステム工場では魚が一匹も死んでいない。魚にとって最適な成育環境なのだ。

田原市に移住し、ラスサーモンを全国に販売する「林邦康さん」

林養魚場では、福島県白河など、屋外の養殖池で生産されたニジマスを「メイプルサーモン」、田原市のRASシステムの工場で生産されたニジマスを「ラスサーモン」、鳥取県のRASシステムの工場で生産されたニジマスを「グランサーモン」と名付けて、国内で販売している。そして、田原市産の「ラスサーモン」の販売を一手に行っているのが、林養魚場のグループ会社である林養魚の林さんだ。林さんは、林養魚場の創業者の孫にあたる。
林さんは小中高校まで福島県で育ち、東京の大学を卒業、サラリーマンを経験した後、林養魚場で生産された魚を販売するグループ会社を設立し、主に全国の釣り場向けの魚の営業を担っていた。しかし、9年前に東日本大震災が起こった。林養魚場の養殖池は山間地にあったため直接的な被害は少なかったが、その後の風評被害が大きく、福島県産というだけで販売が止まった。林養魚場の魚は、毎月の放射線検査で一回も基準値を上回ることはなかったが、それでも出荷ができなかった。福島産ということだけでイメージが悪くなることを大変心外に思った。林さんは、福島産の農産物を食べても安全というイメージをつくりたかった。福島県を応援するために、野菜を地元のお祭りで売ったりするなどする中で、地域への愛着心が高まっていった。
林さんは、2016年に田原市に設立した林養魚の代表として、福島県から家族3人で移住してきた。現在は、年間200~250t(6~7万尾)、1日で多い時は150尾のラスサーモンを、名古屋の中央卸売市場を中心に、東京、大坂、京都の市場に出荷している。その他、寿司屋やレストランなど個店にも配送している。林さんは、ラスサーモンの特徴を次のように語っている。「屋外で養殖されるサーモンとの違いは、同じ餌を与えても、ラスサーモンの方がストレスなく元気に育つため、太って、脂がのっている。淡水と海水では浸透圧の違いがあり、海水のラスサーモンの方が、淡水のサーモンより身が柔らかい。また、淡水のサーモンは独特の匂いがあるが、ラスサーモンは臭みがない。」

国内食料自給率を上げ、SDGsに貢献したい

林養魚場グループでは、RASシステムを使って「周年でいつでもフレッシュな高品質サーモンを!」という理念を掲げている。天然の魚介類は年々漁獲量が減っており、種類よってはまったく獲れない年もあるなど不安定である。世界では、食料不足になる中で、RASシステムの養殖魚が通常の養殖魚の1.5倍の流通量で取引がされている。しかし、日本の養殖技術は世界から遅れていることから、林養魚場はRASシステムの技術で国内の食料の安定供給を担い、日本の食料自給率を上げていくことでSDGs(持続可能な開発目標)に貢献したいと考えている。林さんはこれを進める上で、三つの課題を挙げる。
一つ目は、市場づくりだ。周年出荷と周年販売は意味が異なる。屋外養殖池のサーモンは、水温が高くなる7~11月の暑い時期は養殖ができないため、周年出荷するには冷凍保存をしなければならない。一方、RASシステム工場の養殖池では、地下水の水温が一年を通じて安定しており、冷凍保存せずに周年出荷でき、かつ鮮度がいいのがメリットだ。
ところが、安定的に出荷できることは、必ずしも安定的な販売につながるとは限らない。特に、現在、コロナ禍で飲食店との取引が少なく出荷量が激減している。市場でもホテルなどが仕入れないため、魚の価格が下落している。こうしたことから、海外産に比べて輸送コスト、鮮度に優位性のある国産サーモンのシェアを上げ、安定的に出荷できる市場づくりが重要となる。
二つ目は、リスク分散。東日本大震災を経験し、会社としてリスク分散の意識が高まった。また気候変動の要因もあり、田原市の他に鳥取県でもRASシステムの生産工場を持つようになった。鳥取県に進出した理由は、大山の伏流水を使用できるということと、県が企業誘致に熱心であったことであり、「グランサーモン」という名前も県知事が付けたほどだ。鳥取県のRASシステムは淡水で養殖しているため、同じ場所で孵化・種苗育成し、より効率的な養殖を行っている。
三つ目は、RASシステムによる日本の養殖産業の国際競争力の強化だ。日本は漁業権が非常に厳しく、大きい水産会社が海に生け簀を持とうとしても少数しか持つことができない。また、異常気象や汚染、病気の流行等で日本の養殖産業の生産性が悪く、結果的に後継者不足で廃業している。一方、海外の養殖企業は、日本の1000業者が集まったくらいの規模でスケールが違う。これに対抗するには、RASシステムを導入する国内企業同士がお互いに技術力を向上させ、国内で国産魚のシェアを伸ばし、国内の食料需給率を高める方がいい。近年、RASシステムによる養殖産業は大手商社が参入している。林養魚場もNECと合弁会社を作り、山梨県に陸上養殖の施設を設立するなど、動きが活発化している。

モニターの皆さんに伝えたい林さんの想い

今回のモニター商品は、発送当日に水揚げし、真空処理したもので、冷凍してあっても鮮度はある。
食べ方としては、生食が一番よく、刺身やカルパチョにして食べるとおいしい。商品が届いたら冷凍庫で保存し、食べる日の朝に冷蔵庫に移せば、夕方には解凍され、生で食べられる。モニターの皆さんには、ラスサーモンは投薬をしていないという点を知っていただき、安心・安全な食料を食べていただきたい。そしてラスサーモンの臭みのない、さわやかな脂の旨味を味わってほしい。
このラスサーモンは、豊橋市では回転寿司に、田原市では旅館、ホテルに卸している。そのほか、地元スーパーにも卸している。もし、モニター商品を気に入って購入いただけるようであれば、電話で連絡(0531-32-0466)いただければ、宅急便でお届けする。
林さんには、田原市に貢献したい想いがある。ラスサーモンは、田原市の地下海水があったからこそできた食材であるからだ。渥美半島が誇る食材の一つとして、田原市のイメージアップにつながるように、ラスサーモンをメジャーにしていきたい。また、現在、田原市の観光体験博覧会「たはら巡り~な」のメニューの一つとして、RASシステムの工場見学を行っている。林養魚場グループでは、釣り場や飲食店も経営していることから、将来、田原市でサーモンレストランを作り、ラスサーモンのファンが、生産現場を見学して、楽しく時間を過ごす場所になればと考えている。
そして、林さんは移住してきた今の気持ちを次のように語った。「田原市に来てよかった。まず福島より気候が暖かい。若干風は強いが、室内にいれば問題ない。また地方に行けば行くほど排他的なところがあると思っていたが、こちらに来て一度もそう思ったことがない。それでいて都会的でもないところが気に入っている。温かく迎えてもらい、当社の工場の中で飲み会を月1回ほど開くなど、地域の集り場となっている。」工場横の事務所兼住宅に住み、お子さんは地元の小学校に通っている。林さんは、今後もこの地域に定住し、工場の規模を広げていきながら、ラスサーモンの販売を拡大し、渥美半島に「ラスサーモン」という新時代の食材があることを伝え、地域に貢献したいと考えている。

編集後記

インタビュー終了後、林さんのご厚意で、前日に水揚げした魚を試食させていただいた。少し寝かせたため味が出ており、鮮度もあり歯ごたえがいい。普段食べるサーモンより臭みがなく、脂がのっており、養殖技術でこれだけ味に差が出ることに驚いた。林さんは、豊橋市のフレンチシェフと、田原市の他の食材で日本一になった生産者とサーモン研究会を立ち上げているとのこと。今後、新しい料理が生まれるのを楽しみに待ちたい。
また、大阪府出身の奥様にもインタビューをさせていただいた。「渥美半島は面白い女性農家さんなどがいて、とても楽しい。」とのこと。近くの農家と野菜と魚の交換もすることがあるなど、すでに地域に溶け込んでいると感じた。

しおくりん東三河

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