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茶臼山高原の芝桜【豊根村】

やまエリア 事業者の声

新城市

地域の自然の力を生かした「有機栽培のお茶づくり」
~お茶を通じて、人と人との出会いを大切にしたい「一茶一会」~

新城和紅茶事業者:鈴木製茶 三代目 鈴木克也さん

新城茶の特性をより引き出す「有機栽培のお茶づくり」

愛知県内で煎茶の生産量一位を誇る新城市。新城市は昼と夜の寒暖差があり、茶葉はゆっくり成長でき、香りのよいおいしいお茶となる。お茶どころで有名な静岡茶は、深蒸し茶といい、蒸す時間を長くして、お茶の色が濃い緑になり、味がしっかり出るようなタイプのお茶が多い。対して、新城茶は、黄色くて香りがよく、すっきりとした切れのある味わい(渋みが出る)。
新城市で、13種類もの品種のお茶を無農薬・無化学肥料の有機栽培しているのが鈴木製茶三代目の鈴木克也さんだ。8割以上が「やぶきた」などの煎茶を栽培しているが、「おくみどり」などの碾茶や「べにふうき」「べにひかり」などの「和紅茶」も栽培している。有機栽培をしているため、紅茶でもよりさっぱりとした味で、香りが良い。鈴木さんの取り組みは、2015年の第54回全国青年農業者会におけるプロジェクト発表(園芸・特産作物部門)で農林水産省経営局長賞を受賞したほどだ。

旧作手村で茶づくりを受け継いできた生産者の変遷

現在の新城市は、新城市、鳳来町、作手村が合併し、2005年に誕生した。鈴木さんは、旧作手村大田代に2ha、旧新城市に4haの計6haの茶畑を持つ。旧作手村大田代集落は現在8軒の住民からなり、主に稲作農家を営み、鈴木さんの先祖も米を生産してきた。標高500mと、朝晩の寒暖差が大きくお茶には最適な気候であることから、1962年に鈴木さんの祖父が田んぼからすべてお茶畑に切り替えた。当時、祖父が作る旧作手村のお茶は、特別の香りのお茶と言われていた。新城の平地のお茶とは気温や環境が違うので山の香りがあると高く評価されていた。東京のお茶屋が、わざわざ作手のお茶が欲しいと買い付けに来たほどだ。
また、鈴木さんの祖父は、1980年に自社工場を建設した。自社工場を持つメリットは、自分のタイミングでお茶がつくれることである。工程も調整ができるので、例えば、煎茶の中ではほうじ茶が香ばしく一番人気であり、父の代までは1種類しか作らなかったが、鈴木さんは深煎り焙煎、二段焙煎など焙煎の方法を変えて、4種類のほうじ茶を作っている。特に、鈴木さんのお茶は木の負担を減らし、木の本来の力で茶葉を育てるため、年1回、春だけしか収穫しない。そのため、春にお茶の製造が集中するが、自社工場であれば、柔軟に対応できる。
鈴木さんの祖父は、旧作手村でお茶を生産、製造し、市場出荷のみで生計を立てていた。この地域は静岡県に近く、昔は静岡茶市場に静岡茶として卸していた農家が多かったが、産地表示が厳しくなり、品質はよくても静岡茶市場では県外品となり単価が抑えられるようになった。こうしたことから父親の時代になると、海外向けの抹茶を問屋と組んで輸出することになり、20年前から抹茶の原料の碾茶を栽培し始めた。お茶の海外輸出は有機JAS認証が必要になるため、このころから有機栽培に変えた。そして2002年に茶畑と茶工場の有機JAS認証を取得し、有機JAS認証の煎茶の委託製造も始めるようになった。
そして鈴木さんの時代になる。鈴木さんは家業を継いでから10年になるが、当時は茶業界全体で有機抹茶の輸出が多い時期であった。そこで鈴木さんは、煎茶と碾茶のうち、碾茶の比率を増やし、主にヨーロッパ向けの輸出を多くするために、茶畑の面積を増やしていった。当時、旧新城市内では次々と茶畑を手放す煎茶農家が多く、こうした農地を借りて茶畑を拡大した。ところが、九州などで大規模に碾茶を作り始めたため、単価が下がり始めた。また、新城市で太陽光パネル等に農地転用する農家が多くなっているのを目の当たりにしていた。大規模産地の農家と違う販売方法はないのか、新城市で代々受け継がれてきた茶畑を守るにはどうしたらいいのだろうかと日々思いを強めていった。
鈴木さんはこう考えた。「新城の茶畑を守りながら大規模に生産していくには、山里の小さい畑のストーリーを出すのがいい。店頭にお茶を並べられても、値段や量で比較されてしまい、その想いが伝わらない。誰がどう作っているかを伝えていくには、自分が直接売りに行ったり、卸先でも生産者のストーリーを売ってくれる問屋と組んだり、インターネット販売でもストーリーを伝えていきたい。」と。
こうした考えから、鈴木さんは碾茶を減らし、新城の本来の香りとさっぱりした味の特性を生かせる煎茶や和紅茶の生産を増やして小売りを始めた。そして、「ストーリー」が伝わりにくい市場出荷ではなく、ネット販売、イベント販売、卸での販売に注力している。

新城市産のお茶づくりを残してつないでいきたい「鈴木克也さん」の挑戦

鈴木さんは、小さい時から祖父や父がお茶づくりをしている姿を見て、疑問もなく家業を継いだ。鈴木さんは地元の高校を卒業後、静岡県の野菜茶業研究所で2年間お茶の栽培や製造を学び、その後京都宇治の茶問屋で2年半煎茶と抹茶の合組や流通を修行して、2012年より三代目となる。鈴木さんは、現在32歳であるが、自分の家業だけでなく新城茶を残してつなぐための3つの工夫をしている。
一つ目は、生産面。新城茶の特性をより引き出すには有機栽培が重要だ。鈴木さんの茶畑は6haあるが20カ所くらいに分散しており、毎日管理するのが大変である。鈴木さんの茶畑では除草剤を使わないため、毎日草取りをするが、夏の作業は大変厳しい。しかし、この分散した茶畑が有機栽培には利点となることもある。お茶は見た目に葉っぱの状態が同じでも、生産者には固さの違いが分かる。これは、その年の気候によるところもあるが、同じ年でもある畑ではうまくできて、別の畑ではできない場合もある。このため、畑を分散し、お茶の生育環境を変えている。普通栽培は農薬などで雑草を防除し、お茶の生育環境を調整することができるが、有機栽培は農薬を使わないからだ。
また、お茶づくりは、一度途絶えると、再度生産するのが難しい。お茶は苗を植えてから普通栽培で5~6年、有機栽培で7~8年育てて、ようやくお茶を収穫できる。鈴木さんは、現在、祖父の時代に植えた古い木を植え替えしており、将来は自分が植えた木を孫世代が植え替えすることになる。今、主力の品種を植えても製品になるまで時間がかかり、ニーズに合わない可能性もあるので、様々な品種を植えたりしている。和紅茶のべにふうきは、当時は珍しいお茶であったが、今では植えてよかったと思っている。
二つ目は、製造面。お茶は嗜好品であり、どういうお茶を作りたいのかを作り手が形にするのが重要だ。鈴木さんは、新城茶は香りがいいので、なるべく香りがでるように太陽の光を多く当てるように工夫している。そして旧作手村大田代の工場では、大田代集落の山の水を使っており、この水が香りや味をひきたてる。また、毎年葉っぱの状態が異なるので、同じように蒸すのではなく、手作業で丁寧にやるのがコツで経験がものをいう。さらに、和紅茶を作るときは茶畑で収穫された茶葉を作手の工場に運び、製造する。寒いところはゆっくり発酵できるし、山水を使うので、山特有のお茶の個性を出しやすく、大田代集落はお茶の製造に環境が優れている。
最後に、販売面。新城市では農協を通じて静岡茶市場に出荷している農家が多いが、値段を自分で決められず経営が厳しい。特に、今年はコロナ禍でさらに単価が低くなった。新城のお茶農家は、高齢化もあるが、跡取りがなく、どんどん減っている。新城茶を残していけるように、廃業した農家の茶畑を借りたい気持ちもあるが、これ以上の拡大は人手が足らず、鈴木さん1人の力ではどうにもならない。
新城茶を残す上で販路が一番の問題だ。鈴木さんは現在、問屋と小売りの割合を以前の7:3から5:5にし、独自に販路を開拓している。具体的に、小売りは道の駅もっくる新城、道の駅つくで手作り村、農協の産直所に商品を置いているほか、インターネット販売や、名古屋の飲食店への直接販売などを行っている。1回試してもらえば、リピーターとなって何度も注文が入ることが多いため、インターネット販売ではセット売りなどでリピーター向けにお得感を出したり、お試しセットを用意している。どの世代でも人気で、特に若い人が急須を買って温かいお茶を楽しむ人が多い。鈴木さんは、「大規模で出荷量が多ければ市場出荷していけばいいが、山里では小売りに力を入れた方が経費が減り、利益も上がる。大規模化して市場出荷するメリットは少ない。」という。

モニターの皆さんに伝えたい鈴木さんの想い

モニター商品である和紅茶は、摘み取ったお茶を一晩寝かせ、その後機械で揉んで発酵させ、乾燥して製造する。工程は少ないが、水分を抜く作業に時間がかかるので、製造中は寝ることもできないほど手間をかけている。
和紅茶のおすすめの入れ方は、香りを楽しむなら、ティーカップに熱湯(90~95度)を注いでから、ティーバッグを5秒間入れるのが良い。味を楽しむなら、ティーカップに熱湯(90~95度)を注いでから、ティーバッグを1分くらい入れるのが良い。また、水は地域によって味のイメージが違うので、現在住んでいる水道水を沸かして使うのが最もよい。鈴木さんは、各地にイベント出展するときも、試飲するお茶はその地域の水道水を使うことが多い。砂糖やミルクなしでも飲める優しい味わいで、和菓子にも洋菓子にも合う。
鈴木さんが作りたいお茶は、香りがよくすっきり感のあるお茶であり、そこがぶれることはない。鈴木さんは、東京や名古屋、浜松などでイベントに出展し、お客様に直接飲んでもらうことを楽しみにしている。イベントでは、4種類のほうじ茶を味わってもらったり、和紅茶づくり体験なども行っている。東京では、「新城」という地名が読めない人もいるが、イベントを通じてファンを増やしている。和紅茶は東京のカフェ、名古屋市内などに卸している。また、豊橋発祥で全国展開している「久遠チョコレート」では、鈴木さんの煎茶とほうじ茶を使ったチョコレートの販売を始めた。「モニターの皆さんには、新城にお茶があることを知らない人もいると思うので、実際に飲んで、知って、購入していただいたり、イベントに参加して、お茶の話をしながら試飲してもらえれば嬉しい。」と鈴木さん。
鈴木さんのお茶づくりは、祖父の代から全部手摘みだ。鈴木さんには、20人くらいでのお茶摘みがお祭りみたいで大変楽しかったという思い出がある。祖父の時代だ。鈴木さんはその雰囲気がとても好きで、昨年、少人数ながらもお茶摘み体験を開催した。また、作手の茶畑の苗植えも、お茶づくりを体験したいというお客様と一緒に行ったことがあり、そういう方との関係はずっと続いている。鈴木さんはこのようなお茶づくりの体験を行いながら新城茶のファンを作っていきたいと思っている。お茶摘み体験をし、すぐそばの工場でお茶の製造体験をすることで、愛着がわき、よりおいしく感じてもらえると思う。

編集後記

11月の下旬にインタビューをしたが、生産地の旧作手村大田代集落は肌寒くて、空気が凛としていた。その山の中で生産された和紅茶を、生産地の茶畑を見ながら試飲させていただいた。日常のお茶とは違う、生産者の鈴木さんの想いと生産地の作手の風情を感じ取れるお茶の香りを楽しみ、作手の味を堪能できた。贅沢で格別な時間であった。

しおくりん東三河

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